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太陽面通過の間、金星は太陽の表面を東から西へ動いていく小さな黒い円盤のように見える。天体が太陽の手前を通過し、それによって太陽の一部が隠されるという点で日食と似ている。しかし、日食において太陽を隠す月の視直径(地球から見た見かけの直径)が約30分とほぼ太陽と等しいのに対し太陽面通過時の金星の視直径は約1分と太陽のおよそ30分の1しかない[3]。金星は直径が月の約4倍もあるにもかかわらず、視直径がこのように小さいのは、太陽面通過時の金星は地球からの距離が約4100万キロメートルであり、月(地球から約38万キロメートル)の100倍以上も遠くにあるためである[4]。
金星の太陽面通過の概略図(2012年の通過をモデルにしたもの)
太陽面通過の開始前、金星は太陽の東側から太陽に徐々に接近してくる。しかしこの時には金星は夜側の面を地球に向けているため、見ることはできない。続いて金星が太陽面に接触する。この瞬間を第1接触という[5]。さらに金星が太陽面の内側に入り込み、金星が完全に太陽面上にのった瞬間を第2接触という[5]。第1接触から第2接触までは約20分かかる。その後金星は太陽面上を西へ移動していく。金星が太陽面の中心に最も近づいたときを食の最大という[6]。さらに金星は太陽面上を西に進み、太陽の反対側の縁に到達する。この瞬間を第3接触という[5]。第2接触から第3接触までにかかる時間は、金星が太陽面の中心にどれだけ近い部分を通過するかで大きく変わるが、2004年と2012年の金星の太陽面通過では約6時間である[7][8]。さらに金星が西へ進み、完全に太陽面から離れた瞬間を第4接触という[5]。第3接触から第4接触までは約20分である。このように長い時間がかかる現象であるため日の出前にすでに太陽面通過が始まっていたり、日没時にまだ太陽面通過の途中である場合があり、全過程を観測できる観測地は限られる。2004年の太陽面通過においては中央アジアからヨーロッパで全過程の観測が可能であった[9]。2012年の太陽面通過ではハワイから東アジアで全過程の観測が可能であった[10]。
第2接触の直後と第3接触の直前に金星の形が円形からずれて太陽の縁から滴り落ちる水滴のような形となり、しばらく太陽の縁にくっついた状態が数十秒間続く現象が知られている。これはブラック・ドロップ効果と呼ばれる。この現象のため、第2接触と第3接触の正確な時刻を測定するのは困難であると考えられていた[11]。しかし時代が新しくになるにつれてブラック・ドロップ現象の報告は減っており[11]、これは望遠鏡のピントが合っていないなどの理由による見かけの現象だとされている[3]。